もう一つのハイブリッド車

 ハイブリッド車市場が盛り上がりを見せています。といっても,トヨタ自動車の「プリウス」やホンダの「インサイト」の話ではありません。電動ハイブリッド “自転車”が好調のようなのです。先日参加した新製品説明会では売り上げについて,三洋電機から「2009年4〜6月で前年同期比50%アップ」,ヤマハ発動機からは「1〜6月で同20%アップ」といった景気のよい話を伺いました。

 健康や環境に対する関心の高まりを背景に,国内の電動ハイブリッド(アシスト)自転車市場は年率10%程度成長し,2009年度は35万台市場になる見込みです(自転車協会による)。メーカー各社も市場はさらに伸びると予測しており,例えば「2014年には60〜70万台規模」(ヤマハ発動機 PAS事業推進部 事業推進部長 主管の小林正典氏)になるとの見方があります。

 法改正による追い風も吹いています。大きく二つあり,まず,2008年12月1日に施行された,モータによるアシスト力の変更です。具体的には,従来は最大で1倍だった駆動補助率(人力に対するモータの駆動力の比)を同2倍に引き上げたのです。もう一つが,2009年7月1日から順次施行された「3人乗り」に関する改正道路交通規則です。警視庁は幼児2人乗り同乗用自転車を許可する代わりに,電動ハイブリッド自転車に以下の用件を規定しました(せっかくなので原文のまま掲載します)。

  1. 幼児2人を同乗させても十分な強度を有すること
  2. 幼児2人を同乗させても十分な制動性能を有すること
  3. 駐輪時の転倒防止のための操作性及び安定性が確保されていること
  4. 自転車のフレーム及び幼児用座席が取り付けられる部分(ハンドル,リヤキャリア等)は十分な剛性を有すること
  5. 走行中にハンドル操作に影響が出るような振動が発生しないこと
  6. 発進時,走行時,押し歩き時及び停止時の操縦性,操作性及び安全性が確保されていること
 ユーザー・ニーズの多様化への対応も進みます。これまで電動ハイブリッド自転車=「ママチャリ」といったイメージがありましたが,最近ではマウンテンバイク・タイプや折りたたみ式のモデルも登場し,選択肢は広がっています。マウンテンバイク・タイプの主な購入者層は40代の男性で,通勤に使用する人も多いのです。ちなみに,自転車で通勤する人は数年前から「(自転車)ツーキニスト」と呼ばれ,その数は年々増加しているようです。

 ただ,価格がネックになる方もいるでしょう。電動ハイブリッド自転車は平均約10万円します。ただ,先述の幼児2人乗り同乗用自転車は,普通のものでも6万円以上します。それを考えると,少し上乗せして運転が楽な方を,と考えることもあるのではないでしょうか。もちろん,三洋電機の62万円の自転車や,パナソニックのチタン・フレームの自転車(価格は58万5000円から)に手が届く人は少なそうですが。

 ここまで主婦,ビジネス・パーソンをターゲットにした商品を紹介してきましたが,もう一つ大きな市場があります。それは,中高生です。私も学生時代そうでしたが,彼らは毎日のように自転車に乗ります。この世代には,デザイン性がより重要になってきます。“カッコいい”や“カワイイ”ではありません。“普通”の自転車として見られることが大事なのです。なかなか想像しにくいですが,あるメーカーの技術者の方によると,電動ハイブリッド自転車に乗っていると目立つため,イジメの原因になることがあるようなのです。普通の自転車に見えるようにどうデザインするか,メーカーの腕の見せ所です。

 「自転車は左側通行」――。
 最後に当たり前のことを言ってしまいましたが,自転車を乗る上で非常に大事なことです。自転車ツーキニストという言葉の発案者である疋田智氏が自身の著書や講演でも訴えていますが,左側通行の徹底だけで事故はかなり減らせます。自転車と自動車の出会い頭の衝突の抑止には特に効果があります。電動ハイブリッド自転車は安全まではアシストしてくれませんので,ご注意を。

nikkeibp.co.jp(2009-08-05)