お墓の基礎知識

 墳墓か納骨堂か
 「お墓」と一般的に言っていますが、お墓には大きく2種類あります。一つは「墳墓」と言われるもの、住宅で言えば独立型の家屋、一軒家に相当します。墓地に置かれ区画が分けられてそこに建っているものです。それに対して住宅ではマンション等の集合住宅に相当するのが「納骨堂」です。

 「お墓」と言えば和型の三段墓を想定しがちですが、北海道や九州では納骨堂の利用も盛んです。納骨堂とは一つの家屋の中にたくさんの遺骨収容スペースが設けられたものです。

 墳墓にも墓石のタイプで大きく分けて2種類あります。伝統的な和型の三段墓が主流ですが、首都圏では横型の洋型が最近では人気を集めています。

 墳墓つまりお墓は墓地に置かれています。この墓地は勝手に作ることができません。都道府県の許可が必要で、経営主体は地方自治体、財団法人、宗教法人に限定されています。実際の許認可の事務は市区町村の保健所が行っています。

 株式会社に経営が許されていないのは墓地の永続性の観点からです。でも最近では財団法人や宗教法人の倒産もあり、お墓選びには経営主体の財政が健全かというチェックも欠かせません。

 昔からあった共同墓地や個人墓地は、継続使用は認められていますが、新しく作ることは認められていません。ですから、自分の家の庭が広いからといって、そこに墓を作ることはできません。

 法律的には墓の承継者が「祭祀主宰者」
 墓地はその性格から3つに分けることができます。地方自治体の経営する公営墓地、財団法人や宗教法人等の公益法人が経営する民営墓地…この2つは一般に「霊園」と言われています。もう一つはいわゆる寺墓地、正確には寺院境内墓地と言われるものです。

 一般に「霊園」と言われる公営墓地、民営墓地では宗旨が問われることはありません。宗旨は自由です。これに対して寺院境内墓地はそのお寺の檀家であることが使用条件になります。檀家になるのですから、お葬式をその寺の僧侶に行ってもらい、戒名(法名)をつけてもらうのが一般的な原則となります。

 また、一般的な表現として「お墓を買う」という言い方をしますが、墓地の土地は「買う」ものではなく「借りる」ものです。「墓所として使用する権利」を買うのです。

 期限が定められていないことが多く、そのため「永代使用料」という言い方がされますが、使用者がいる限りということです。お墓の承継者がいなくなると「無縁」になり使用する権利は失われます。

 お墓の承継者は男子と決まってはいません。結婚し姓が変わった娘でも立派な承継者です。70年代頃には「うちは女の子だけだから墓の跡継ぎがいない」と心配されましたが、いまはそのようなことはありません。また、「次男だから墓を別にしなければならない」ということもありません。

 法律的には墓の承継者は「祭祀主宰者」ということで、これは特に本人の指定がなければ「慣習による」となっています。配偶者か子か相談して決めればよく、決まらなければ家庭裁判所が決します。本人が遺言その他で祭祀主宰者を指定しておけば、その人が墓の承継者、つまり使用者となります。

 お墓の費用は一般的に250万円くらい
 墓の使用者の権限は大きなものがあります。誰の遺骨をその墓に入れるかということは使用者の権限です。入れるも拒否するも使用者に権限があります。

 きょうだいで親の墓を作った。そして長男が使用者となった(使用者は一人です)。その兄が死んで、その兄の息子が承継し使用者になった。弟が自分もお金を出して作った墓だからそこに入りたいと言ったら、甥が拒否して入れなくなった、というのはよくある事例です。もちろん甥がいいと言えば入れるのです。

 お墓の費用というのは、一つは墓所として土地を使用する権利、つまり使用料、もう一つはその墓所の中に外柵を作ったり、遺骨を納骨するスペースであるカロートの工事をしたりという基礎工事の費用、第3は墓石の費用です。

 この3種類の費用が作る際に必要となるお金です。これが一般的に250万円くらいかかると言われています。もちろん郊外は安いし、都心は高いし、墓所も大きければ高いし、小さければ安いです。墓石も和型三段墓は外柵工事もいるし、石の量も多いので高く、洋型のほうが安いです。といっても墓石の材料によっては値段が変わってきます。

 費用はほかに毎年管理料がかかります。1万円前後が目安になります。しかし、この管理料は墓地全体の管理のための費用で、その家の墓所内の掃除、草取りなどの管理は自分たちでしなければなりません。それを請け負う業者もいます。

 「墓」の革命ーーー永代供養墓
 「お墓」と言えば「○○家」と刻まれた和型の三段墓をイメージすることが多いかと思いますが,その「墓」の世界が急速に変化してきています。

 跡継ぎが不要な永代供養墓
 一般的なお墓には家名が墓石に彫られています。これは一般的に「家墓(イエハカ)」と言われるものです。この家墓,跡継ぎがいるかぎり代々続いていきますが,跡継ぎがいなくなったらどうなるのでしょうか?

 跡継ぎのいなくなった墓は「無縁墓」となり,処分されることになります。すると単身者の人,子のない人はどうするのでしょうか?

 80年代の後期にそうしたことを背景に誕生したのが「永代供養墓」です。これはつまり跡継ぎを必要としないお墓です。子孫が代々お墓を守るのではなく,お寺が続くかぎりお寺が面倒をみますよ,という墓です。但し,これまでの墓が一戸建てだったのに対し,このお墓は共同墓の形態をとります。

 この永代供養墓はいま全国で500ほどあります。寺院だけではなく地方自治体も積極的にこの形態のお墓に力を入れています。こちらは「合葬式墓地」と言います。

 永代供養墓(合葬式墓地)ができたおかげで,単身者,子のない人がお墓に入れるようになっただけではありません。子に死後の世話をかけたくない人もいて人気を集めています。

 海や山に砕いた遺骨を撒く散骨(自然葬)
 90年代に入ると「お墓そのものが不要」という考えが出てきました。 火葬した遺骨を細かく砕き,これを海や山に撒き,大自然に還そうという葬法です。

 米国等では古くから散骨(スキャタリング)は行われていました。しかし日本では,遺骨を墓地や納骨堂以外に葬ることは,刑法「遺骨遺棄罪」に該当するのではないかと危惧されてきました。

 91年に市民団体「葬送の自由をすすめる会」が相模湾で近代以降では最初の散骨を「自然葬」と名づけて行い,大きな話題を集めました。

 法律論議はいまではほぼ決着しています。つまり,遺骨遺棄を目的にするのではなく,あくまで「葬送を目的として行い,相当の節度をもって行われるならば違法ではない」という解釈が一定の社会的合意を得ています。

 では「相当の節度」の内容ですが,一つは細かく砕くことです。米国のカリフォルニア州法では2ミリ以下と定めているので,それが参考になるでしょう。遺骨の原形が残らない形で,というのが一つの条件です。

 もう一つの条件は「他人が嫌がらない場所」で行うことです。生活用水として用いている川,海でも海水浴場や養殖場の近くは避けられるべきでしょう。

 ただ問題は法律論議以外に「遺族の気持ち」の問題があります。いわゆる「お墓参り」という死者を記念する場所をもたないことです。このため遺骨全部を撒くのではなく,一部を残してお墓に納める,家の仏壇に置く,という選択肢もあります。

 自然と墓の共生を目指す樹木葬
 墓が問題になったのは,跡継ぎの問題だけではありません。高度経済成長期以降,大都市に人口移動が激しく,それにつれて大都市に移住した人々が核家族単位で墓を求めるようになった結果,大都市周辺の森林が墓地に造成され,自然破壊を引き起こしたという問題があります。そうした問題意識が「自然葬」の発想に結びつきました。

 それなら墓を造ることが自然を守ることになる道はないのか,と考えて樹木葬は誕生しました。樹木葬は山林を墓地として許可を得るのですが,その後が違います。その墓には墓石がないのです。骨壷も使用しません。土を70センチくらい掘り,遺骨を埋め,土を埋め戻し,墓石の代わりに花木を植えるのです。そして墓地を購入したお金を基金にしてその山林の自然を守ろうとするものです。

 樹木葬は99年に岩手県一関市に誕生,山口県,千葉県にもその動きは伝わりました。東京でも墓地の一角に桜の木を植え,その周辺に遺骨を埋める桜葬が誕生して人気を集めています。

 お墓というのは一見古いものの代名詞のようですが,さまざまな生き方,考え方を反映した時代の最先端にいまあるのです。<<碑文谷 創(ひもんや・はじめ):ジャーナリスト>>

nikkeibp.co.jp(2007-05-11)