保存食ランキングでカンパンが苦戦

 カンパンは正直言ってあまりうまくはない。しかし、被災生活で保存食として役に立ってくれると思うので、なんとなく手元に置く習慣がある。そのカンパンが保存食ランキングで苦戦している。背景にあるのは保存食の「ちょっとだけよグルメ化現象」である。

 保存食ランキングには、「楽天市場」→「ランキング」→「キッチン・日用品雑貨・文具」→「日用品・生活雑貨」→「防災関連グッズ」→「保存食」、とアクセスしてたどり着く。ランキングは毎週変わるが、4月18日更新のデータではこうなっていた。

  1位 新アルファ米オールスターセット
  2位 新しくなったおでんの缶詰
  3位 生命のパン
  4位 非常用食品セット「アークスリー」
  5位 生命のパン6缶セット

 3位と5位は基本的には同じ商品だ。カンパンは、30位までのランキングのうち8位、12位、15位、23位と4カ所にランクインして、かろうじて「保存食の代表」という面目を保っているに過ぎない。

 おでんの缶詰が大健闘
 ベスト5に入った保存食の概要を眺めてみよう。まずは1位の「新アルファ米オールスターセット」。袋に入っているのは、普段食べているのと同じ「うるち米」である。袋を開けて、お湯または水を注いで、しばらく待てば食べられる。待ち時間は最長でも1時間。スプーン付きなので食器は不要だ。

 オールスターセットには、「白飯」「赤飯」「五目ご飯」「山菜おこわ」「わかめご飯」「梅わかめ」「白粥」「梅粥」の8種類が入っている。種類を多くして飽きさせないように工夫しているのがミソだ。

 内容量はすべて1袋100グラムで、出来上がりの量は市販のおにぎり2.5個分に相当する。1袋(1食)当たり約265円で、保存期間は5年。

 2位の「新しくなったおでんの缶詰」には、こんな説明文が添えてある。「秋葉原周辺で大ブレイク中。缶を開けたとたんに、出汁のきいた香りがふわーっと食欲をそそります。イージーオープン缶で誰でも簡単に開けられます」。その気にさせられるキャッチコピーではないか。

 1缶の内容量は250グラムで、ちくわ、タマゴ、こんにゃく、大根など6品程度が入っている。1缶当たり約320円で、保存期間は3年。

 3位の「生命のパン」は、缶の中に柔らかい生のパンが2個ずつ入った商品だ。プルトップなので開けるのは簡単。

 1缶の内容量は100グラムで、黒豆パン、オレンジパン、プチヴェールパンの3種類がある。1缶当たり約340円で、賞味期限は5年。

 4位の非常用食品セット「アークスリー」とは何だろう。こんな説明文である。「軽量でコンパクトなパッケージには、成人1人3日分の飲料水と食糧、防寒・耐熱効果に優れたアルミブランケットが収められています。当製品は国連、ペンタゴン、米国沿岸警備隊をはじめ、日本においても官公庁、大手企業などで多数採用されています」。

 このうち「食糧」は高たんぱく質、脂肪分、ビタミン、ミネラルなどをカステラ状に固めたもの。1個当たり400カロリーなので、市販のおにぎり3個分に相当する。1パッケージ(成人9食分)約2300円なので、1食当たりでは255円になる。メーカー保証期限は5年。


 グルメ化商品が上位に
 ざっと分類すると、1位の「新アルファ米セット」、2位の「おでんの缶詰」、3位の「生命のパン」は、ちょっとだけでもいいので保存食の味を向上させようと努力した「グルメ化商品」である。また、4位の「アークスリー」は、食糧だけでなく飲料水とアルミブランケットを加えた「付加価値型商品」である。

 さて、カンパンはどうだろう。ベスト30にランクインしたのはどれも似た商品だが、15位の「三立カンパン」が一番分かりやすい。

 効能書きにこうある。「非常食の定番カンパンです。数十年前は、味のないただ硬いだけの商品でしたが、最近のカンパンは、大変味が良く、硬さも以前ほどの硬さはなく大変香ばしく食べやすくなっております」。カンパンでもグルメ化の努力をしていたのだ。

 「ただ、歯の悪いお年寄りや、小さなお子様にはそのまま召し上がるのは難しいので、袋に入れて砕いたり、お湯や温かいミルクに入れてふやかしたりすれば召し上がりやすいでしょう。カンパンといっしょに、疲労回復に効果的な糖分=氷砂糖が入っています」。カンパンだけでは味が足りないために、氷砂糖の力を借りざるを得ないようだ。

 内容量は100グラムで、1缶が約200円になる。保存期間は5年。


 頑張れカンパン
 我らがカンパンは今後、どうなるのだろう。5種類の保存食を一覧表にして比較してみた。



 内容量は単位が違うので分かりにくいが、おおむね1食分の軽い食事だと考えればいい。カンパンの取りえは価格が約200円と一番安いこと。ただし、アークスリーは食糧、飲料水、アルミブランケットのセット商品なので、食糧だけとれば200円を切るのではないか。

 意外だったのが、保存期間がおでんの3年をのぞけば、他の4商品ともに一律5年だったこと。長持ちすることが身上のカンパンで、しかも缶詰になっていてたった5年というのは解せない話だ。

 いずれにしても、カンパン危うしである。

 三立カンパンを製造する三立製菓によると、「天保13年(1842)に、反射炉で有名な伊豆韮山の代官、江川太郎左衛門が保存できる軍用の携帯食としてパンを焼き始めたのが我国のカンパンのルーツ」であるようだ。

 江戸時代から続く伝統食に絶えてもらいたくはない。カンパン、頑張れ。<<細野 透(建築&住宅ジャーナリスト)>>

nikkeibp.co.jp(2007-05-03)