安心できる「パソコン廃棄時のデータ処理」とは

 パソコン買い替え時のデータ廃棄はどうする
 パソコンがマニアだけのものでなくなり、仕事に必須のものとなって久しい。仕事で使用しているデータを家に持ち帰って、家で仕事の続きをしている、なんて人も少なくないだろう。しかし、インターネットの普及に伴ってウイルスなどでデータが漏洩するという事件も珍しくなくなった。

 会社ではセキュリティ意識がある人でも、自宅にあるパソコンのデータ管理をきちんとしているという人は少ないのではないだろうか。そのパソコンで会社のメールを受信していれば社外秘の情報も含まれているだろうし、年賀状を作っていれば友人や知人の宛名リストがそのパソコンには入っているだろう。友人や知人の住所や連絡先だって、立派な個人情報だということを忘れてはいけない。

 パソコンの買い替えなどに伴って、そういった個人情報などの入ったパソコンを安易に捨てたりしていないだろうか? 仮に重要なデータを削除したり、捨てる前にハードディスクをフォーマットしていても安心とは言い切れない。ちょっとパソコンに詳しい人なら知っている通り、データの削除やディスクをフォーマットした程度では、データ復元ソフトを使えばデータの内容を復元できることもある。うっかり消してしまったデータをこういったソフトで修復したことのある人もいるだろう。そういったソフトはいくらでも市販されており、悪用しようと思えばできてしまうのが現状だ。

 データ削除の仕組み
 パソコンでデータを捨てるとなったら、まず最初にやることは、データを「ごみ箱」に捨てることだろう。しかしこれはご存知のとおり、「ごみ箱」から「元に戻す」だけでデータは復活してしまう。データを復活させないためには、「ごみ箱を空にする」作業が必要だ。これでデータを削除したことになる。では、データを削除するとき、パソコン上では実際にどのような作業が行われるのだろうか。

 一般的なOSではデータを管理するためにディスク上に管理テーブルと呼ばれるエリアを設け、ここに実データへのアドレス(データの絶対位置)を記録する。あるファイルを参照する場合には、システム的には管理テーブルに書かれたアドレスを調べて、そのアドレスへ移動し、データにアクセスする。

 データを削除する場合には、この管理テーブルのみを削除するのが一般的だ。実データには触らないことで、削除に要する時間を短縮できる。また間違って削除してしまった場合でも、実データは残っているためデータの修復が容易になるというメリットもある。

 ハードディスクのフォーマットも、クイックフォーマットでは高速にフォーマットが完了するが、これもファイル削除と同様に管理テーブルのみを初期化しているため。時間のかかる通常のフォーマットを行った場合には、すべてのエリアに「0」を書き込むため一見データは削除できているように見える。しかし、磁気で記録されるハードディスクやフロッピーディスクでは、特殊な方法を使えば以前のデータの残留磁気が検出できてしまうのだ。つまりは通常のフォーマットでも完璧ではないということになる。もちろん家庭で使う程度のデータにどこまでのセキュリティを求めるかという問題は別にあるとしても、削除やフォーマットだけではまだデータが復元できてしまうということを覚えておこう。

 データ削除ソフトとは?
 パソコンやハードディスクを廃棄する場合に、内容を削除したりフォーマットするのは当たり前。といってもWindowsなどで標準で用意されている機能では、最大のセキュリティレベルでもフォーマットする程度しか選択肢はない。しかしそれだけでは前述のとおりデータを復元できてしまう。それもあってさらにデータ復元を難しくするソフトが市販されている。それがいわゆる「データ削除ソフト」なのだ。

 データ削除ソフトについて説明する前に、まずデータ復元の仕組みをおさらいしよう。前項で述べたフォーマットの場合、すでにデータが記録されているエリアに「0」を書き込んでいく。絵が描かれた上から、白い絵の具で塗り潰していくようなものだ。すると塗り方によっては元の絵が透けて見える場合がある。つまり既存のデータの上に単一なデータを書き込んだだけでは、特殊な方法を利用すれば残存磁気が検出できてしまう。これがフォーマット後にも方法次第でデータを復元できてしまう仕組みだ。単一のデータで上書きしても元のデータを復元することは不可能ではないということだ。

 ではどうすればいいか。すでにある絵の上に複雑な絵を描いてしまえば元の絵は見えにくくなる。つまりデータ上に新たなデータを上書きしてしまえばいいのだ。しかし、ディスクに新しくデータを書き込んでもそれが以前のデータに上書きされたかどうか、一般的に知る術はない。もちろんディスクがいっぱいになるまで様々なデータを書き込めば以前にあったデータエリアも上書きされているだろう。しかし、毎回そんなことをしていては時間が掛かりすぎる。そこで、以前にあったデータを削除しつつ、そのエリアに別の無意味なデータを上書きして元データの痕跡を消してしまおうというものが、データ削除ソフトなのだ。

 市販データ削除ソフトをチェック
 データ削除ソフトは、2,000円程度から10,000円を超えるものまで様々だ。さらにはオンラインソフトとして無料で配布されているものもある。個人ユーザーで、そのままでは心配だが、お金までかけてデータを削除したくないといった方は、まずはこういったオンラインソフトを使ってみるというのも手かもしれない。今回は市販ソフトをいくつか紹介しよう。
 今回試用した4つのソフトのうち「データ復活/完全削除」を除く3つはAMI(American Megatrends Inc)のソフトを日本語化したものだった。それぞれ若干機能は異なるが、多くの会社にローカライズされているAMIのソフトは、それだけ評価が高いということでもある。製品カタログにはなかなか出てこない部分だが、製品選びの指標になるといえるだろう。また、すべてのソフトで削除方式に米国国防総省推奨や米国国家安全保障局推奨といったように保安基準が選択できるのに感心した。さすがに専門のデータ削除ソフトだけのことはある。

■メディアカイト「データ復活/完全削除」
 応OS:Windows 98SE/Me/2000/XP用
 価格:1,980円
 データ復活と完全削除と両方の機能を持って1,980円と非常に安価なのが特徴だ。ドライブ選択時に必ずディスクスキャンをしなければいけないのだが、このスキャンにかかる時間が非常に長いのが難点。

■トリスター「POWER ERASER 抹消プロ」
 対応OS:Windows 98SE/Me/2000/XP用
 価格:14,490円
 名前のとおり消去専用ソフトで、15段階の消去レベルが選択できる。メインウィンドウはWindowsのエクスプローラー風で、ファイルを選択してあらかじめ指定した方式か、ファイル毎に消去方法を選択できる機能を持つ。また、ファイルのほか、インターネットの閲覧履歴やCoockie等の消去、リムーバブルメディアの一括消去機能なども備えている。

■ライフボート「USBから使える クイック! ファイル抹消」
 対応OS:Windows 2000/XP用
 価格:11,340円
 プログラムが収められたUSBメモリー(およびUSB延長ケーブル)が付属する。USBメモリーをPCに挿すとWindowsからはCD-ROMが接続されたように認識されるので、誤ってプログラムを消去してしまうこともない。CD-ROMドライブのないノートPCなどで便利だ。

■ジャングル「完全ファイル抹消2006」
 対応OS:Windows 98SE/Me/2000/XP用
 価格:10,290円
 15段階の消去レベルと、リムーバブルメディアにも対応したデータ削除ソフト。パーティション抹消や、空き領域の抹消、メモリーカードの抹消など様々な機能を持つ。また、インターネットエクスプローラーのプライバシーデータの消去にも対応している。抹消結果レポート出力機能なども備えている。

 データ削除サービスもある
 こういったデータ削除ソフトを利用するのも手だが、大塚商会などではハードディスクからデータを完全に削除するサービスも行っているので、こうした方法を使ってもいいだろう。使い方がよくわからず、中途半端に自分でデータを消去するよりも、外部に任せたほうが安心という考え方もある。大塚商会では、市販データ削除ソフトと同じように米国国防総省で規定されているデータ消去仕様に合わせてサービスを用意している。具体的には任意のデータを複数回ディスク上に書き込んだり、ディスクそのものを消磁したり、物理的に破壊したりと、ソフトだけでは不可能なサービスも提供している。

 ただし、こういったサービスは終了時に作業報告書などを提出してくれるとはいえ、重要なデータを最終的に人任せにするという意味では、専門業者といえども心理的に不安が残るのは否めない。大塚商会のほかにも、こういったサービスを提供する会社はあるが、信頼性を考えるとやはり実績のある会社のほうが安心だろう。

 データ削除の料金だが、上記の1つの方式だけでいいなら2,625円、2つの方式なら4,200円、すべての方式を組み合わせるなら6,300円だ。個人なら高く感じるかもしれないが、これで会社の重要なデータが守れるなら、ある意味安いともいえる。データを確実に消去したいなら、こうしたサービスに頼むのもひとつの手だ。

 最強のセキュリティは物理破壊
 上記のようなソフトを使えばデータの痕跡を消すことは可能だ。しかし、一般的なユーザーは残留磁気を検出する機器を持っているわけでも、知っているわけでもない。つまり、本当にデータが復元できないのかどうかを確かめる方法はないということだ。やはり自分の目で確かめないと不安というなら、最終手段ともいえるのがディスクを物理的に破壊してしまうことだ。個人ユーザーがそこまでするのは偏執的といえなくもないが、データの重要性は主観的なものなので、枕を高くして眠るためにはやってやりすぎということはない。いちおうここでやり方を見てみよう。

 物理的にディスクを破壊するには、フロッピーディスクなら簡単だ。ディスクを力一杯ねじれば中の磁性体が塗られた円盤が出てくるのでそれをハサミで切ってしまえばいい。重要なデータが書き込まれたCD-Rなども大きなハサミで切ってしまうか、CDやDVDを破壊する装置も市販されているので、それを使ってもいい。

 問題はハードディスクだ。すべてを高温に熱して溶かしてしまえば完璧だろうが、なかなかそうもいかない。そこでハードディスクを分解して中の円盤に傷を付けてしまうのがいい。ただ、ハードディスクには鋭利な金属のパーツも含まれている。もしやるなら、怪我に注意して、安全な場所でやってほしい。

 ハードディスクの基本構造は、強固なプラスチックの匡体に金属のフタを取り付けたもの。これを開封するには、多くの場合トルクスレンチと呼ばれる星形をした工具が必要となる。これでネジを緩めると、磁性体が塗られた円盤が出てくる。この円盤自体にドライバーなどで傷を付けてやればいい。また、傷は放射状に付けるのではなく、同心円状に付けたほうが読み取りを難しくする。放射状に傷を付けてもヘッドは同心円状に読み取りを行うため、一瞬で傷のエリアを通過してしまうためだ。同心円状に傷を付けるなら、通電してディスクを回転させながら傷を付けていくのが簡単だ。また、ドリルなどを使ってディスクそのものに穴を開けてしまってもいい。

 昨今の個人情報保護の風潮はやや過剰ともいえるほどだ。しかし、会社の機密情報などが入っていなくても、友人知人の個人情報などは個人のパソコンに入っていてもおかしくない。友人、知人に迷惑をかけないためにも、こういったデータはしっかりと消去してからパソコンは廃棄するようにしたい。

 ハードディスクを分解したところ。データが記録されるのは右のディスク部分なので、これを外して傷を付けるか、破壊してしまうのがいい。事前に上記のソフトでデータを消去しておけばなおさらだ。
<<文/平 雅彦(WINDY Co.)>>

nikkeibp.co.jp(2006-11-02)