新型インフルエンザはなぜ怖い?

 インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって起こる気道感染症です。普通の風邪と違って、全身の症状が強いのが特徴で、感染してから1〜3日間と短い潜伏期間の後、突然の発熱(通常38度以上)、頭痛、関節痛、筋肉痛などで発症します。

 高齢者や心臓、肺などに慢性の病気を持っている人、免疫力の低下した人などは、インフルエンザにかかると重症化しやすく、入院や死亡のリスクが増加することも知られています。また子どもでは、中耳炎や熱性けいれんなどを誘発することがあります。最近では、幼児を中心に、急性脳症を起こして死亡するケースが報告され、「インフルエンザ脳症」として問題になっています

 このようにインフルエンザは、普通の風邪に比べて症状がずっと重いのですが、もう1つの特徴として挙げられるのが、普通の風邪よりも感染力がはるかに強い点です。専門家によれば、我が国では、毎年の流行で国民の5〜10%、つまり600万〜1200万人が発病するとされています。わずか数カ月の流行期に、これだけ膨大な数の患者を生み出すほどの強力な感染力を持つのは、インフルエンザウイルスしかないそうです。

 やっかいなことに、インフルエンザウイルスはとても突然変異を起こしやすいウイルスです。毎年、ウイルス遺伝子に突然変異が起こり、抗原性が少しずつ変化する(連続抗原変異という)ため、人は一生に何回もインフルエンザにかかりますし、インフルエンザは流行を繰り返すのです。

 ところで最近、「新型インフルエンザ」という言葉をよく耳にします。新型インフルエンザの発生が世界的に警戒されているとの内容が頻繁に報道されていますが、実は新型インフルエンザの出現は、こうした連続抗原変異によるものではありません。新型インフルエンザとは、鳥のインフルエンザが人の世界に入ってきて流行することなのです。

 鳥のインフルエンザは、自然界においてはカモやアヒルなどの水鳥を中心に感染しますが、通常は人に感染することはありません。しかし、鳥インフルエンザウイルスの性質が変わることによって、これまで人に感染しなかったウイルスが人へ感染するようになり、さらには人から人へ感染するようになることがあります。このように変異(不連続抗原変異という)したインフルエンザウイルスを新型インフルエンザウイルスといい、そのウイルスによって起こるインフルエンザを新型インフルエンザというのです。

 もし新型インフルエンザが発生した場合、基本的には鳥のインフルエンザに対する抗体は誰も持っていないわけですから、人の間で急速かつ広範囲に広がることが予測されます。さらに、都市への人口集中、飛行機など高速大量輸送の交通機関の発達が感染拡大に拍車をかけ、短期間に地球全体にまん延し、世界的な流行(パンデミック)になることが考えられます。

 20世紀には、新型インフルエンザは、10年から40年の間隔で3回出現しています。1918年のスペインかぜ、1957年のアジアかぜ、1968年の香港かぜがそれですが、いずれも世界的に流行し、多くの死亡者を出しました。香港かぜ以降、既に30年以上が経過しており、新型インフルエンザの出現を警戒すべき時期に入っています。

 さらに、1997年には香港で、病原性の高い鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)の人への感染例が報告されました。2003年以降も、H5N1型の感染例の報告が続いており、問題視されています。厚生労働省によれば、これまでタイやベトナム、インドネシアなど東南アジアを中心に、125人が発症し、64人の死亡者が出ています(2005年11月10日現在)。この鳥インフルエンザウイルスが近い将来、人から人へ感染するようになり、新型インフルエンザとなることが懸念され、世界的な監視体制の強化が急務となっているわけです。(瀬川 博子=健康サイト編集)

nikkeibp_jp (2005-12-01)