グチは他人にとってもネガティブ・エネルギー
「前向き」な考え方が脳細胞を増やす!

 少し前になりますが、「ポジティブ・シンキング」という言葉が流行りましたね。確かに、どんな状況に遭遇しても、それをマイナスにとらえず、前向きに考える方が脳にとってはプラスに働くのです。

 自分の脳に磨きをかけるには、さまざまな刺激が大切です。しかし、これとは別に、考え方にも大きな意味があります。「うまくいく」「私は幸せだ」などと前向きに考えるだけで、脳細胞は増えて活性化するという事実も分かっています。

 では、逆にネガティブ・シンキングはなぜ駄目なのでしょうか?



 ネガティブ・シンキングやため息が駄目なのは、ただ気分的に沈んでしまうから、というものではありません。例えば、「疲れた」「つらい」「イヤになった」――などの否定的な言葉を口に出して言ってしまうことは、ある種の宣言と同じだからです。

 こうした言葉は耳を通して、再び自分の脳の中に入ってきます。すると、脳内物質の一つで、脳を元気にさせる作用のあるセロトニンなどの物質が減ってきてしまい、ますます元気がなくなるという悪循環に陥ってしまうのです。また、ネガティブに考えるとそれがストレスとなって、脳細胞の一部は減っていきます。

 「疲れた」と言うとさらに疲れてしまうのは、このように脳が活力の出るような働きをやめてしまうからです。ですから、いくらつらくて、疲れていても、口には出さないことが大切です。

 また、明るい人や前向きな人は、周囲の人も元気にしてくれますが、「ダメだダメだ」と否定的にものを言う人は、他人のやる気も失わせてしまうのが問題です。これは、ネガティブなことを言葉に出すことで、他人にもネガティブなエネルギーを送ってしまうからです。

 あなたの周囲にも、仕事がうまくいかないのは「会社の組織が悪い」「上司の責任だ」などと、常に他人のことを非難して、文句ばかり言っている人はいませんか。こうしたネガティブな考え方でさらに恐いのは、文句を言うことで解決方法が見えなくなってしまう点にあります。

 グチを言っていると、脳の真ん中あたりにあって、感情をチェックしている「扁桃体」という組織が働き、怒りとか不愉快な情報として、目の前の情報をとらえ、その結果を大脳皮質に送ってしまいます。そのため、「無視しろ」というような、否定的な行動を取るように命令が出てしまうのです。

 つまり、「自分はついていない」と思うと、ますますうまくいかなくなるのは、うまい解決方法やチャンスがあっても、それに気がつかない脳になってしまっているからです。感情的になったり、文句を言ったり、という態度では、脳がうまく働く状況にはなりません。脳をポジィティブに働かせ、チャンスを見つけだすには、どんな駄目な状況でも、これ以上駄目にならない、と思える前向きの考え方を身に付けることが必要なのです。
                     米山公啓(医学博士、作家)

日経BP健康(2005-07-07)