思い出せないアナタは”危ない”物忘れ?
記憶力”も使わなければどんどん低下

 「人の名前が思い出せない」「何を探しているのか忘れてしまった」――。こういった物忘れの経験は、誰にもあることだろう。

 そんなとき心配になるのは、その物忘れが“痴ほう”(認知障害)の初期症状ではないかということ。そこで、簡単なチェックによって、あなたの物忘れが加齢による自然なものなのか、それとも病的な原因によるものなのかを調べてみよう。下のチェック表をまず試してもらいたい。



 チェック表で、「正常な範囲の物忘れ」と診断された人は、加齢にともなう自然な記憶力の低下といっていいだろう。実は、自分で物忘れを心配している人は、まず9割がた大丈夫といっていい。

 問題なのは、物忘れしたこと自体を忘れてしまう人なのだ。こうなると、会った人の名前が出てこないどころではなく、その人に会ったことすら忘れてしまう。できごと自体を忘れてしまうため、自分が病気であるという自覚がないのが厄介だ。そういった病的な物忘れは、周囲にいる家族によるチェックが必要となる。

 さて、病的ではないといっても、できれば物忘れはしたくないもの。そこで、毎日の生活の中でできる記憶力トレーニングを2つ紹介しよう。

 1つは、夜寝る前に、1日のできごとを復習するというトレーニングだ。そのときに思い出すポイントは次の3つ。「その日に会った人の顔とフルネーム」「その日食べた食事の内容」「支出した金額と使い道」である。これを毎日繰り返すだけでも、記憶力はアップする。

 もう1つのトレーニングは、初めて会った人の名前が、なかなか覚えられない人向きのもの。

 それは、いったん名前を聞いたら、会話の中に頻繁に相手の名前を入れる癖をつけるのだ。「ところで、○○さんはどちらのご出身ですか」「このあたりには、○○さんはよくいらっしゃるんですか」といった調子である。繰り返すことによって、その人の名前が頭にたたきこまれるはずだ。

 記憶力というものは、使わないとどんどん低下していく。専門家によれば、使わない記憶はがけ崩れの起きた山道のようなものだという。ときどき使って通りをよくしておかないと、どんどんと荒れはてて通れなくなってしまうので注意してほしい。

 上のチェック表で「病的な物忘れの可能性がある」と判断された人は、なるべく早く医療機関に相談することをお勧めしたい。最近では、「物忘れ外来」を設置している病院も増えてきた。

 アルツハイマー型痴ほうと診断された場合でも、薬剤の投与や生活指導などの対策によって、病状の進行を遅らせることができる。ここでも、早期発見が大切だということを覚えておいてほしい。

 また、アルツハイマー型痴ほうが進行すると、脳の血流量も低下することが知られている。これに動脈硬化による血流低下が加わると、痴ほうが重症化しやすい。そのため、高血圧や高脂血症の治療も同時に受けることになる。

 物忘れ外来の担当医師によれば、痴ほうの予防や重症化防止には、知的好奇心をもつことが効果的という。定年退職しても隠居するのではなく、趣味を楽しんだり、ボランティアとして働いたりすることが大切だ。なかでも、陶芸や園芸のように、両手を使った創造的な活動は特に効果が高い。(二村 高史=ライター)

日経BP健康 (2005-05)