こんなにある「赤ワインが体にいい」ワケ

 昨今の赤ワインブームに火をつけたきっかけは、“フレンチ・パラドックス”のなぞ解きにあったことは有名な話。なぞ解きをしたのは、1992年にランセットという一流学術誌に掲載された論文だ。

 バターや卵、肉料理などをたくさん取るフランス人は、先進諸国の中でも脂肪の消費量が多いが、それにもかかわらず冠動脈疾患の死亡率は他国に比べてむしろ低い。これがいわゆる“フレンチ・パラドックス”だが、論文ではこの背景として「フランスでは赤ワインの消費量がずば抜けて高い」ことを指摘。これにより赤ワインは世界中の注目を集めることになったのだ。

 その後、フランス東部で中年男性3万4000人を15年間追跡し、アルコールの摂取状況と死亡率の関係を調べた疫学調査では、一日2〜5杯程度のワインを飲む人で、心臓病による死亡率が最も低いことが分かった(ファクトシート参照)。一日1〜3杯程度のワインを飲む人では、何とがんによる死亡率も低下した。

 こうしたワインの健康効果は、ワインの中でも特に赤ワインに多量に含まれる「ポリフェノール」の抗酸化作用によることも、今ではよく知られている事実だ。

 実は、赤ワインの中には、フラボノイド、アントシアニン、カテキンをはじめ、シンプルフェノールやタンニンなど、ポリフェノールのオンパレードといってもいいくらい多種類のポリフェノールが揃っている。

 この理由は、原料となるブドウの果肉だけでなく、果皮や種、それに茎の一部も一緒に発酵にかけ、その後は木のたるに詰めて長期間熟成させるからだ。この間に、これらの素材からいろいろなポリフェノールたちが溶け出し、さらに反応や結合したりして、別のポリフェノールが作り出されるという。

 ポリフェノールは抗酸化力が強く、動脈硬化の原因となる悪玉コレステロールの酸化を抑え、心臓病を防いでくれる。また、がんや老化の原因になる「酸化反応」は体の中で常に起きているが、毎日ワインを飲めば、それを防ぐこともできる。赤ワインを飲んだ後は、体の抗酸化力が高まって活性酸素の発生が抑えられることを示す実験結果は、日本の学者によって94年のランセットに報告され、「ポリフェノール」の名を世界的に知らしめた。

 なお、ブドウに含まれるポリフェノールの量は意外にも種に最も多く、全体の65〜70%を占める。果皮は25〜35%、果肉には2〜5%と少ない。このため、果皮と種を使わない白ワインではポリフェノールの含有量は赤ワインの約10分の1しかなく、ロゼは半分くらいだという。

 心臓病やがんだけでなく、ワインは老人性痴呆や痛風の予防にも効果があることも報告されている。

 例えば、2004年にランセットに報告された米国ハーバード大学の大規模調査の結果では、ワインを1日2杯まで飲む人では、痛風になるリスクがむしろ抑えられることが分かった(ファクトシート参照)。これは約5万人の男性について、飲んでいるお酒の種類や量と、痛風の発症率の関係を12年間追跡したもの。1日2杯以上ビールを飲む人やウイスキーなどの蒸留酒を飲む人では、お酒を飲まない人に比べて、それぞれ2.5倍、1.6倍も痛風になりやすかった。

 また、ビールや蒸留酒を毎日飲む習慣のある人は、飲酒しない人に比べて約1.5倍アルツハイマー病になりやすくなったが、同じ酒量でもワインを飲む習慣のある人は、飲酒しない人に比べて、なりやすさが半減するとの調査結果も、米国の研究グループから報告されている。

 こうした痴呆に対するワインの予防効果は、やはりワインのポリフェノールが脳内の過酸化物質を抑えるからだと考えられている。また、赤ワインには血流を良くし、血小板が固まるのを抑える働きがある。つまり、日常的に赤ワインを飲むことは、心臓病だけでなく、ボケの予防にも効果があることは確かなようだ。

 ただ同じ赤ワインでも、ブドウの品種や製造方法によってポリフェノール量は変わってくる。味わいが濃く、しっかりした重みのある“フルボディー”と呼ばれるワインほど、ポリフェノールの含有量が多いとされるので参考にしたい。

 ちなみに、ポリフェノールが特に多い品種とされているのは、フランス産では「メルロー」「カベルネ・ソーヴィニョン」「カベルネ・フラン」、イタリア産は「ネッビオーロ」、アメリカ産では「ジンファンデル」などだ。(瀬川 博子=日経メディカル)

日経ヘルス(2004-12)