ダムの湖底に沈む「川原湯温泉」宿泊記

 草津温泉への玄関口に位置する国道145号線沿いの川原湯温泉はダムに沈むことで一躍有名になった。今年に入り長年にわたった調停作業が決着し、ダム建設が決まる。ダム完成は10数年後であるが、立ち退き作業は数年後から始められる。草津にスキーや温泉に行くとき、また山に登るときそばをいつも通過していた。

 ”温泉が良い”
 ”食事が良い”
 ”慶長年間に創業された旅館のため随所に歴史が感じられる”
 ”安い”
 ということで、川原湯温泉山木舘の常連客となっている親戚のS氏と4月1日宿泊した。

 S氏は東京電力の関連会社に勤めていて、川原湯温泉山木舘が会社の契約保養所になっている。会社の契約保養所の中で1番人気が高いそうである。鶴ケ島ICから関越道経由で2時間で到着。標高が500m強あり、季節が1ケ月逆戻りした感じで、梅がまだ満開になっていない。昨日の雪が道路わきに残っている。

 川原湯というから、そばを流れる吾妻川の川原に温泉が沸いているとばかり 思っていた。温泉街は川面から50〜60m高いところに位置している。時間があるので付近を散策してみる。吾妻川沿いの吾妻渓谷には遊歩道がある。また、温泉街から1kmのところに不動滝という立派な滝がある。標高586m地点には、ここがダムの水面になるという看板が方々に建てられている。ダムに沈む家々は特にわびしく感じられる。玄関脇に水車がある山木舘に入り、まず温泉に浸かる。草津温泉に近いので硫黄分の強い湯かと思っていたが、透明に澄んでおり、かすかに硫黄らしき匂いがする柔らかく感じのいい湯である。内風呂・露天風呂・貸切岩風呂とあるが、特に奥様連中にはゆったりと貸切で入れる 貸切岩風呂が人気である。

 昭和初期に、絶大な人気を博した「のらくろ」の作者・田川水泡が滞在し、 原稿を山木舘から講談社へ送っていたという。この温泉が気に入ってのことであろう。夕食・朝食は懐石料理風で品数が多くしかも地元の幸の手作りの料理で食べきれないほどである。夜9時すぎごろ庭木のえさにムササビがやってくる。フロントに頼むと”ムササビがきたよ”と連絡してくれる。1泊2食付で1万円。時には24時間入浴可の温泉でゆったりと過ごしたい方にはおすすめ。

記:大澤 敏夫(2001-4-6)